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10. 研究成果の総括

 

10.1 得られた成果
3年間に渡り、KA32鋼(315N/?2級TMCP鋼)の試験片を用いた系統的な腐食疲労試験の結果多くの知見を得た。以下にその成果の概要を述べる。
(1)小型及び中間型試験片を用いた腐食疲労試験によって次の成果が得られた。
1)基準となる母材切欠き試験片について大気中のS−N線図が得られた。
2)無塗装の母材切欠き試験片、突合せ溶接継手試験片、角回し溶接継手試験片について海水温度の影響を調べた所、つぎのことが分かった。
a)母材の疲労強度は25℃から温度上昇に伴い低下する。
b)突合せ溶接継手試験片及び角回し溶接継手試験片については海水温度の影響はほとんど見られなかった。
3)同種の試験片について塗膜厚を50,100,200,300μmと変化させ、また人工海水中の温度を25,40,60℃と変化させて疲労試験を行った所、次のことが分かった。
a)母材については低応力の長寿命側で腐食疲労強度の改善が見られた。
また海水湿度が25℃から上昇すると疲労強度は僅かに低下するが無塗装材に比較すると塗装による疲労強度改善効果は維持されている。
b)突合せ溶接継手、角回し溶接継手とも本実験のような高応力域では塗膜厚の影響は明確に現れなかった。
4)電気防食を実施して人工海水中で疲労試験を行った結果、電気防食は有効で、低応力域では大気中とほぼ同等の疲労強度が得られた。
5)腐食損傷面の検査の結果、ピットの発生が腐食疲労強度に大きな影響を及ぼすことが分かった。
6)小型試験片と中型試験片及びその中間の形状の中間試験片の角回し溶接止端部付近では降伏点に達する残留応力が発生していることが判明した。
(2)実物を模擬した中型試験片について塗装の有無に分けて疲労試験を実施し、小型試験片の試験結果との対比を行った。その結果つぎのことが分かった。
1)無塗装試験片について人工海水中試験の寿命は大気中の寿命の50%となった。
2)塗膜厚を200μm40℃の人工海水中で疲労試験を行った結果、大気中に比較して60%まで低下した。
3)塗膜は構造物の海水腐食に対しては効果があるが、応力の大きい領域では小型試験片と同様に疲労強度低下には効果が小さいことが確認された。
4)小型試験片、中型試験片及び中間型試験片の結果をホットスポット応力(SR202のB法で整理するとこれらはほぼ一致した。小型試験片の結果を構造物の腐食疲労寿命の評価に適用可能である。
(3)バラストタンクの実環境と実験室での環境条件とを比較した結果、水質、温度、バラスト漲水率などが今後検討を要することが分かった。
(4)就航中のタンカー、バルクキャリアのバラストタンクの腐食、損傷状況を調査した結果、これらの状況は第1期から第3期に分かれ、塗膜が健全であるにも拘らずき裂のある場合があることが判った。
(5)以上の研究成果を基につぎの提案をした。
1)各種条件下のS−N線図
2)船体構造部材の腐食疲労強度評価法
(6)本研究の成果と従来の腐食疲労の実験データを収集しデータベース化を行った。

 

 

 

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